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交通事故における損害賠償請求事件

弁護士の解決によらなければ、休業損害が認められなかったと考えられる。休業中の所得減少額を認定し、逸失利益等も認めた事件(交通事故における損害賠償請求事件)。

事件番号 横浜地方裁判所判決 平成25年(ワ)第1358号
判決日  平成26年12月26日

主   文

1 被告は,原告に対し,216万2274円及びこれに対する平成24年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
被告は,原告に対し,860万8418円及び内金811万8319円に対する平成24年2月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,自動車を運転中,被告運転の自動車により追突されて損害を被った旨主張する原告が被告に対し,自賠法3条及び民法709条に基づき,損害1149万8391円から任意保険金411万0072円を控除した738万8319円及び弁護士費用73万円の合計811万8319円及び事故発生日である平成21年3月25日から自賠責の保険金75万円の支払日である平成24年2月12日までの3年と19日の確定遅延損害金124万0099円の合計935万8418円から上記75万円を控除した860万8418円及び上記811万8319円に対する自賠責保険支払日の翌日である平成24年2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実)
(1) 事故の発生(以下「本件事故」という。)
・発生日時 平成21年3月25日午前8時42分頃
・発生場所 神奈川県綾瀬市深谷無番地先路上
・加害車  被告運転の普通乗用自動車
・被害車  原告運転の普通乗用自動車
・事故態様 被害車が信号待ちで停止中,加害車が追突した。
(2) 責任原因
被告は,原告に対し,自賠法3条及び民法709条に基づき,原告に生じた損害を賠償する責任がある。
(3) 原告の受傷
原告(昭和58年○月○○日生)は,本件事故により,頭部挫傷,頚椎捻挫,頭蓋内出血の疑い,腰椎捻挫,左膝挫傷,左肩挫傷,左上腕打撲の傷害(以下「本件傷害」という。)を負い,綾瀬厚生病院に入通院したほか,つるま整形外科及び大和駅前接骨院に通院した。
(4) 後遺障害等級認定
原告は,自賠責の事前認定手続において頚部及び腰部の挫傷につき,局部に神経症状を残すものとして後遺障害等級14級9号の認定を受けた(甲2,症状固定時期については争いがある。)。
(5) 損害の填補
自賠責保険から遅くとも平成24年2月12日までに75万円と,任意保険から411万0072円の損害の填補を受けた。
2 争点
(1) 症状固定日
【原告】
平成22年4月9日,本件傷害について症状指定した。
【被告】
本件傷害のうち,頚椎捻挫,胸椎捻挫,腰椎捻挫は他覚的所見のない神経症状であり,本件傷害の程度,治療経過,検査結果等に鑑みると,遅くとも平成21年9月25日には症状固定したと認めるのが相当である。
(2) 損害
【原告】
ア 治療関係費 184万5692円
(ア) 171万4287円(平成21年3月25日から同年9月30日までの治療費であり支払済み)
(イ) 8万4585円(エース薬局の薬剤費4万9260円及びつるま整形外科への治療費3万5325円の合計額であり支払済み)
(ウ) 4万6820円((ア)(イ)のほか,別紙一覧表のとおり原告が綾瀬厚生病院,つるま整形外科,大和中央クリニック等で自己負担した治療関係費及び文書料の合計額である。接骨院は含んでいないし,皮膚科は消炎鎮痛薬である。)
イ 入院雑費 1万2000円(1500円×8日)
ウ 通院・通学交通費(以下「通院等交通費」という。) 58万2640円
(ア) 通院交通費のうち,既払額32万1860円以外の原告が自ら出捐した金額15万7190円が未払である。
(イ) 原告は,トリマー専門学校へ通学し,毎週月曜日の通学時に同学校で使用する練習用の犬と8キログラムに及ぶ道具を自動車で運搬していたが,本件事故によりタクシーを使用せざるを得なくなった。その際,被告の損保会社は,原告との間で,往路分はタクシー会社と契約して料金を負担し,復路分も領収書があれば負担する旨を約束(帰途,大和駅前接骨院へタクシーで通院することも了承)したため,原告はタクシーを利用したものであり,その未払額は10万3590円である。
(ウ) 以上のとおり既払金を含む通院等交通費は58万2640円である。
エ 家庭教師費用 7万5000円
原告は,本件事故のためにトリマー専門学校を進級できず,ライセンスの取得が困難になる可能性があったことから,専門の家庭教師を雇って留年を回避する必要があった。
オ 洗髪費用 2万3400円
原告は,本件事故により頚部や手の痛みがひどく洗髪が困難になり,平成21年5月6日まで美容院での洗髪を余儀なくされたが,その費用は2600円,9回の合計2万3400円である。
カ 休業損害 510万1209円
(ア) 基礎日額
被告が契約した損保会社は,原告の確定申告書に基づき基礎日額を1万2430円と認定した(平成19年度の1万2906円と平成20年度の1万1955円の平均値。甲52,137)。しかし,後者は水道光熱費70万円を考慮しておらず,これを加算すると,基礎日額は1万3389円となる(〔1万2906円+1万3872円〕÷2)。
(イ) 休業期間
本件事故発生日の平成21年3月25日から症状固定日の平成22年4月9日までの381日間である。
(ウ) 算定
1万3389円×381日=510万1209円
キ 入通院慰謝料 150万円
原告は,平成21年3月25日から平成22年4月9日までに,入院8日,通院約12か月半にわたったことを考慮すると,原告の精神的苦痛を慰藉するには150万円が相当である。原告が本件傷害で世話をできずにプードル一匹が死んだことを慰謝料の増額事由とすべきである。
ク 逸失利益 105万7910円
(ア) 基礎収入 488万6985円(日額1万3389円×365日)
(イ) 労働能力喪失率5パーセント
原告は,頚部痛及び腰部痛について,局部に神経症状を残すものとして後遺障害等級14級9号の認定を受けた。
(ウ) ライプニッツ係数 5年間相当の係数は4.3295である。
(計算式) 488万6985円×0.05×4.3295
ケ 後遺障害慰謝料 130万円
頚部及び腰部について障害等級14級と認定されたことからすると,原告の精神的苦痛は大きく,130万円の慰謝料を認めるのが相当である。
コ 弁護士費用 73万円
損害は1149万8391円であり,既払金411万0072円を控除すると738万8319円であり,弁護士費用は73万円が相当である。
サ 以上によれば,損害の合計額は811万8319円であるところ,自賠責保険金75万円(平成24年2月12日までに受領)を,民法所定の年5パーセントの割合による3年と19日の確定遅延損害金124万0099円に充当すると,損害元本は811万8319円,確定遅延損害金の残金は49万0099円であるから,その合計は860万8418円である。
【被告】
ア 治療関係費
症状固定日は平成21年9月25日であり,同時点までの治療費・薬代の合計は171万4827円である。
イ 入院雑費
日額1100円であるから8日間の入院で8800円である。
ウ 通院・通学交通費
32万1860円を支払ったことは認めるが,その余の費用は本件事故による損害とは認め難い。被告保険会社が原告主張のタクシー代の支払を約束をした事実はない。
エ 家庭教師費用及び洗髪費用
本件事故と相当因果関係はない。
オ 休業損害
(ア) 休業の不存在
原告の経営する店舗は,事故後も営業を継続しており,休業事実はないから,固定経費は損害とは認められない。
(イ) 休業損害額について
確定申告書によると,平成19年が▲341万7737円,平成20年度が▲252万6210円であるから,事故後の収入減は存しない。なお,平成20年分の水道光熱費の立証があれば,基礎収入に算入すると約束した事実はないし,原告が出捐したとも認め難い。
① 減価償却費
実際に出捐される費用ではないから,維持管理に必要な費用とは認められない。
② 水道光熱費
原告主張の水道光熱費は,支払名義が第三者であり(甲130ないし135の各枝番号),原告が負担者とは認められない。また,水道代は,犬の数に応じて変動するから,固定費とはいえない。
③ 損害保険料
損害保険料には,火災保険と賠償保険も含まれるとされるが,平成19年が11万7231円,平成20年が3万1600円,平成21年が2万3170円と金額が変動しており,平成22年,平成23年には発生していないから,営業の維持・継続に必要な固定経費とは認められない。
④ 消耗品費(トリミングのシャンプー,タオルの費用),獣医・血統登録(ブリーディング業務に伴い必要),フード代(ブリーディング業務,ペットホテル業務を行う際に要する費用),ハンドラー代(ドックショーで犬を引いてもらう料金)は変動費である。
(ウ) 休業の必要性
本件傷害は,画像所見や神経学的所見などの客観的所見のない頚椎捻挫,腰椎捻挫であって,症状も比較的軽微な神経症状であり,可及的早期に通常の日常生活,就労に復帰するのが望ましいとされていること,原告は,退院時に日常生活動作及び就労制限を受けていないこと(乙2の1の8,16頁),犬のブリーダー及びトリミング等の作業は比較的軽作業であることからすると,原告の休業の必要性は認められないし,休業を要するとしても2,3か月と見るのが相当である。
カ 入通院慰謝料
入通院は,平成21年3月25日から同年9月25日まで(入院8日)であり,入通院慰謝料を90万円程度認めるのが相当である。
キ 逸失利益
原告の所得は,平成19年▲341万7737円(乙6の1),平成20年度は▲252万6210円(同2)であり,原告主張の症状固定日の平成22年4月9日以降も,平成22年度が▲550万8350円(甲140),平成23年度が▲338万5359円(甲141)であり,平成19年の開業から5年間に1度も黒字になったことはなく,原告に所得はなかったのであるから,原告が労働能力喪失期間として主張する5年間のうちに原告が基礎収入額を得る蓋然性は認め難く,逸失利益は発生しない。仮に逸失利益を認めるとしても,労働能力喪失期間は長くても3年間とするのが相当である。
ク 後遺症慰謝料
後遺障害等級14級の慰謝料としては110万円が相当である。
第3 争点に対する判断
1 症状固定時期について
乙第3号証の2(自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書)によると,原告は,本件事故により受傷後である平成21年4月7日から平成22年4月9日まで,つるま整形外科を受診し(合計25回),同日,頚椎捻挫,胸椎捻挫,腰椎捻挫の傷病名により症状固定したことが認められる。なお,乙第1号証(A作成の医学意見書)には,原告に施された治療が対症療法にすぎないなどとして平成21年9月25日には症状固定した旨の記載があるが,症状固定の有無については,格別の事情のない限り,継続的に問診・治療した専門医療機関の判断を尊重すべきところ,つるま整形外科の上記判断には明らかに不合理な点があるとは認め難いし,上記意見書は,原告を問診ないし継続的に診察したものではないことを考慮すると,直ちに採用することはできない。
2 損害
(1) 治療関係費 184万5692円
本件事故と相当因果関係のある治療関係費が171万4287円を下らないことは当事者間に争いはなく,同事実と,甲第3ないし47号証,第142号証,第146ないし152号証,原告の供述及び弁論の全趣旨を総合すると,原告は,本件事故による本件傷害を治療するため,原告主張の治療費①171万4287円,②8万4585円,③別紙記載の医療機関,診療科,治療費,文書料,薬剤費欄記載の4万6820円の合計184万5692円を出捐したことが認められる。
(2) 入院雑費 1万2000円
甲第7号証,第48号証及び原告の供述によると,原告は,本件事故により,平成21年3月27日から同年4月3日まで8日間,綾瀬厚生病院に入院したことが認められる。そうすると,入院雑費として1万2000円と認めるのが相当である(1500円×8日)。
(3) 通院等交通費 57万9980円
原告が通院等交通費32万1860円を支払ったことは当事者間に争いがなく,甲第53ないし123号証,第128,第129,第142,第143号証,原告の供述及び弁論の全趣旨によると,原告は,トリマー専門学校(2年間の総合課程)を受講し,本件事故当日に卒業し,以後,毎週月曜日に同校の専門課程(2年間)を受講したこと,原告は,通学の際,教材用(練習用・試験用)の犬1匹と8キログラム程度の受講用の器材一式を自ら約1時間かけて自動車で運搬していたが,本件事故後はタクシーを利用して通学しながら犬及び器材を運搬せざるを得なくなったこと(交通渋滞・走行経路等によりタクシー料金は変動するが,約1時間の運行では6000円ないし8000円程度に達することは公知の事実である。),被告が契約していた保険会社は,通学の往路については,保険会社がまとめてタクシー会社に支払い,通学の復路については,下校時刻が不確定であるため領収証を残すことを条件に保険会社が交通費として支払う旨表明していたこと,原告は,通学の際に通院することもあったが,帰路の通院が不相当であるとまではいえないこと,原告は,保険会社が負担した既払分32万1860円のほか,自ら通院・通学のタクシー代合計25万8120円を出捐したことが認められる。
なお,原告は,タクシー代1520円(甲124),平成21年9月29日の交通費690円(甲125,126)を請求するが,これらは検察庁へ出頭した際のものであり,事故の被害者とはいえ,捜査に協力することは当然のことであるし,同日のそのほかの交通費450円(甲127)は納税のためであり,本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(4) 家庭教師費用 7万5000円
甲第136号証の1ないし4,第142号証及び原告の供述によると,原告は,上記認定のとおり,本件事故後,トリマー専門学校の専門課程(2年間)に進学し,毎週月曜日に通学していたが(8割以上の出席が要件),本件事故により十分な技術の習得・訓練ができず,進級及びライセンスの取得が困難となる可能性が生じたため,平成22年6月から9月にかけてトリミングの家庭教師の指導を受け,7万5000円を出捐したことが認められ,これに照らすと,原告が家庭教師を依頼したことには相当な理由があるから,本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(5) 洗髪費用 2万3400円
甲第50号証の1ないし8,第142号証及び原告の供述によると,原告は,本件事故により頚部や手の痛みがひどく,自ら洗髪することが困難になったため,本件事故直後の急性期に当たる平成21年5月6日までに合計9回,美容院での洗髪を余儀なくされ,合計2万3400円(2600円×9回)を出捐したことが認められる。
(6) 休業損害 101万6537円(円未満切捨。以下同様)
ア 甲第138ないし142号証,第145号証,乙第6号証の1,2,原告の供述及び弁論の全趣旨によると,原告は,平成19年4月以降,横浜トリミングスクール総合課程(2年間)に通学しながら(平成21年3月25日の本件事故当日に修了),平成19年からBの屋号でトリマーとして稼働していたこと,仕事は,犬のホテル(預かり)及びブリーディング(本件事故当時も約60匹を保管・飼育),トリミング(犬の毛のカット,シャンプー作業)等であること,確定申告書には,①平成19年度については,売上金額854万6000円,売上原価675万3840円,経費520万9897円,所得金額▲341万7737円であること,②平成20年度については,売上金額852万3600円,売上原価562万4000円,経費542万5810円,所得金額▲252万6210円であり,両年度の売上金額がほぼ同一であることを斟酌すると,平成20年度の水道光熱費も平成19年度と同様に84万円程度であり,所得金額は▲336万6210円(8523600-5624000-5425810-840000=▲3366210。月額▲280517円)であったと推認されること,③平成21年度については,売上金額654万5670円,売上原価412万7240円,経費694万7036円,所得金額▲452万8606円であること,④平成22年度については,売上金額554万2040円,売上原価319万円,経費786万0390円,所得金額▲550万8350円であること,⑤平成23年度についても,売上金額541万9000円,売上原価192万5000円,経費687万9359円,所得金額▲338万5359円であることが認められ,これらの事実に照らすと,原告の事業は,当初から大幅な赤字傾向が続いていたことが認められる。
イ 本件事故前の所得金額については,原告は平成19年度に事業を開始したばかりであるから,同年度の所得金額と翌年(本件事故の前年)である平成20年度の所得金額の平均値を採用すべきところ,原告が事業を開始した平成19年度以降,休業期間(平成21年3月25日ないし平成22年4月9日)を含めた平成23年度(記録上窺える会計年度)までの所得は大幅な赤字傾向にあることは上記のとおりであるから,休業期間中の所得の減少は,専ら本件傷害による就労制限によるものではなく,原告の事業の経済効率の悪さ,社会・経済状況の変動及び同業者との競合等による受注減少という可能性も否定できない上,本件傷害が漸次回復することからすれば,原告の休業損害については,休業期間中の所得減少額のうち,7割の限度で本件事故との相当因果関係を認めるのが相当である。
ウ 上記のとおり,原告の所得は,平成19年度が▲341万7737円,平成20年度が▲336万6210円であり,2年間の平均は▲339万1973円(月額28万2664円)であるところ,平成21年度の所得が▲452万8606円,平成22年度の所得金額が▲550万8350円であるから,平成21年3月25日から同年12月31日までの休業損害は61万4716円(〔452万8606円-339万1973円〕×282/365×0.7),平成22年1月1日から4月9日までの休業損害は40万1821円(〔550万8350円-339万1973円〕×99/365×0.7)であると認めるのが相当である。
エ 以上によると,原告の休業損害額は101万6537円である。
(7) 入通院慰謝料 125万円
本件傷害により,原告は,平成21年3月25日から平成22年4月9日まで入院8日,通院約12か月半の治療を受けたから,原告の精神的・肉体的な苦痛は甚大であり,その慰謝料は125万円を下らない。
なお,原告は,本件傷害により世話ができず,プードルメス1匹が死んだことを慰謝料として斟酌すべき旨主張するが,本件事故と同犬の死との間の相当因果関係を認めるに足りる証拠はない。
(8) 逸失利益 50万4163円
ア 労働能力喪失率
甲第2号証によると,原告は,自賠責保険の事前認定手続において,頚椎捻挫に伴う頚部痛及び背部痛と,腰椎捻挫に伴う腰痛については,自賠法施行令別表第二第14級に該当する旨認定されたことが認められるから,格別の事情のない限り,原告の本件事故による後遺障害については,障害等級14級と認めるのが相当であるところ,上記事情を認めるに足りる証拠はない。
イ 基礎収入
上記のとおり,原告は,高校卒業後,横浜トリミングスクール(本件事故当時,2年制の総合課程を修了し,引き続いて2年制の専門課程を修了した。)の全課程を了したこと,原告のトリマーとしての事業は,本件事故の前後を通して赤字状態が継続しているが,逸失利益を全面的に否定することは,無職者が求職活動中であった場合に逸失利益が認められることと均衡を失すること,原告は,本件事故によって労働能力の一部を喪失しなければ,事業の赤字幅を縮小し得た可能性も否定できず,赤字幅(損失)を縮減できなかったことも「損害」と評価し得ること,原告は,本件事故当時20代後半(症状固定時に26歳)であり,職業選択の幅が相当にある年齢層であったことからすれば,民訴法248条の趣旨を考慮し,原告の基礎収入を平成22年度の賃金センサス(高専・短大卒)である年332万7100円の7割に相当する232万8970円であると認めるのが相当である。このことは,赤字事業の場合でも,事業の好転を期待して継続する者もいれば,転職する者もいるのであって,前者を選択したことを理由に逸失利益を否定することは,結果的に加害者を利することになり,損害の公平な分担という損害賠償制度の趣旨に悖ることからも首肯することができる。
ウ 労働能力喪失期間
後遺障害等級14級であり,器質的障害ではなく,神経症状であることを考慮すると,労働能力喪失期間を5年間であると認めるのが相当であるから,ライプニッツ係数は4.3295である。
エ 以上によると,原告の逸失利益は50万4163円ということになる。
(計算式)
332万7100円×0.7×0.05×4.3295=50万4163円
(9) 後遺障害慰謝料 110万円
原告は頚部と腰部の複数か所について障害等級14級と各認定され,精神的苦痛の程度は大きく,110万円と認めるのが相当である。
(10) 以上によると,原告の総損害は640万6772円であり,前提事実の既払金411万0072円を控除すると,229万6700円であるところ,原告が本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであり,本件事案の内容,難易度,認容額等を総合すると,弁護士費用としては23万円が相当である。
(11) よって,原告の損害元本は252万6700円であり,これに対する平成21年3月25日(本件事故発生日)から平成24年2月12日(自賠責保険金75万円の支払日)までの民法所定の年5パーセントの割合による3年と19日の確定遅延損害金を算定すると,38万5574円ということになることから,元利合計金額は291万2274円であり,これから自賠責の支払分75万円を充当すると,残額は216万2274円である。
(計算式)
252万6700円×0.05×(3+19/365〔0.052〕)=38万5574円
252万6700円+38万5574円-75万円=216万2274円
3 結論
以上によれば,原告の請求は216万2274円及びこれに対する自賠責による支払を受けた日の翌日である平成24年2月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合にする遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する(仮執行免脱宣言は本件事案においては相当ではないから,これを付さない。)。
横浜地方裁判所第6民事部
裁判官  市村 弘

バイク乗車中に死亡事故が発生し、遺族による損害賠償請求を認めた事件。同乗者にも過失を認定してるので、弁護士が受任しての解決が必要と思われる。(交通事故による損害賠償請求事件)

横浜地方裁判所判決 平成25年(ワ)第3480号
判決日 平成26年7月17日

主   文

1 被告らは,原告に対し,連帯して,3766万1291円及びうち3426万1291円に対する平成24年4月6日から,うち340万円に対する平成23年6月25日から,各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1は原告の負担とし,その余は被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求
被告らは,原告に対し,連帯して,5572万7014円及びうち5066万7014円に対する平成24年4月6日から,うち506万円に対する平成23年6月25日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 前提となる事実(証拠を記載した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 平成23年6月25日午後9時45分ころ,神奈川県藤沢市湘南台4丁目22番地先交差点(以下「本件交差点」という。)において,被告Y1(以下「被告Y1」という。)が運転し,保有する普通乗用自動車(スバルR2,以下「Y1車」という。)と,被告Y2(平成7年○○月○○日生,以下「被告Y2」という。)が運転し,A(平成7年○月○日生,以下「亡A」という。)が同乗し,亡Aが保有する普通自動二輪車(カワサキゼファー,以下「本件バイク」という。)とが衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。〔被告Y2の生年月日につき甲3の10,亡Aの生年月日につき甲1の2〕
(2) 本件交差点は,交通整理の行われていない十字路交差点であり,その状況は,別紙交通事故現場見取図(以下「本件見取図」という。)のとおりである。被告Y1は,Y1車を運転して,下土棚方面から土棚方面に向かって本件交差点を右折しようとしており,被告Y2は,本件バイクを運転して,亀井野方面から下土棚方面に向かって本件交差点を直進しようとしていた。〔甲3の3〕
(3) 本件事故により,本件バイクの後部座席に同乗していた亡Aは,路上に放出されて転倒し,肝臓破裂等の傷害を負い,平成23年6月26日午前1時20分ころ,神奈川県藤沢市内の病院において死亡した。
(4) 原告は,亡Aの母であり,共同相続人であるBとの遺産分割協議によって,亡Aが被告らに対して有する本件事故による損害賠償請求権を単独で相続した。〔甲2〕
2 事案の概要
本件は,原告が,被告らに対し,民法709条又は自賠法3条に基づく損害賠償請求権に基づいて,5572万7014円及びうち5066万7014円に対する自賠責保険金受領の日の翌日である平成24年4月6日から,うち506万円に対する本件事故の日である平成23年6月25日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
3 争点及び当事者の主張
(1) 事故の態様及び責任原因(争点1)
ア 原告の主張
(ア) 被告Y1について
被告Y1は,交通整理の行われていない本件交差点を右折進行するにあたり,対向進行してくる本件バイクを認めたのであるから,本件バイクの動静を注視し,Y1車を停止させて本件バイクの通過を待つなど本件バイクとの安全を確認しながら右折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,本件バイクより先に右折進行できると軽信し,本件バイクの動静を注視せず,本件バイクとの安全を確認しないで漫然と,いわゆる早回り右折によって右折進行した過失により,Y1車右前部を本件バイクの右側面に衝突させ,その結果,本件バイクに同乗していた亡Aをその左前方に飛び出させて,路外公園敷地内に転倒させ,肝臓破裂等の傷害により死亡させた。
(イ) 被告Y2について
被告Y2は,交通整理の行われていない本件交差点を亀井野方面から下土棚方面に向かい直進するに当たり,同所先は道路標識によりその最高速度が30キロメートル毎時と指定された道路であったから,上記最高速度を遵守して進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,時速約50ないし60キロメートルの高速度で進行した過失により,本件バイクを,対向車線から右折進行してきたY1車に衝突させ,本件バイクに同乗していた亡Aをその左前方に飛び出させて,路外公園敷地内に転倒させ,肝臓破裂等の傷害により死亡させた。
イ 被告Y1の主張
本件事故は,本件バイクの通過を待つため停止していたY1車に,本件バイクが異常な高速度で衝突したものであり,被告Y1には過失がない。
被告Y1は,Y1車の一部が対向車線にはみ出していたとはいえ,Y1車の右側には,路側帯を入れて2.3メートルという十分通行可能なスペースがあったのであるから,被告Y2が制限速度に従って走行していれば,適切にハンドル操作を行うことによって,容易にY1車の左側を通行することができたものである。また,そもそも被告Y1がY1車の一部を対向車線にはみ出すような形で停止せざるを得なかったのは,本件バイクが制限速度をはるかに超える異常な速度で走行していたことに起因するのであって,この点につき被告Y1の過失を認めるのは相当でない。
ウ 被告Y2の主張
被告らに過失があることは認める。
(2) 過失相殺の可否及び過失割合(争点2)
ア 被告Y1の主張
仮に,被告Y1に,本件事故につき何らかの過失が認められるとしても,亡Aは,事故発生の危険性が極めて高いことを認識して本件バイクに同乗しており,死亡という結果が生じたことにつき,亡Aにも過失が認められるのであるから,損害の公平な分担という見地から,原告主張の損害額については,大幅な減額がされるべきである。
イ 原告の主張
亡Aは,交通事故が起きた場合に,自己の生命に危険が生じることを承知した上で本件バイクに同乗したわけではなく,本件事故は,被告Y2の無免許ないし運転技術の未熟さに起因するものではないから,亡Aの損害が減額されるべき事情は一切ない。
(3) 原告の損害額(争点3)
ア 原告の主張
(ア) 亡Aに生じた損害
a 治療関係費 88万6960円
b 逸失利益 4340万3970円
基礎収入は,平成23年賃金センサス(男性労働者・学歴計・全年齢平均)により526万7600円,生活費控除率は50パーセント,就労可能年数に対応するライプニッツ係数は16.4796であるから,亡Aの逸失利益は,上記金額となる。
c 慰謝料 2500万円
亡Aは,被告Y2運転の自動二輪車に同乗中に本件事故に巻き込まれたものであり,全く落ち度はないこと,亡Aは16歳ながら,解体業や作家という将来の夢の実現に向けて,会社の面接に行くなどしていたところ,突然の交通事故によりその夢を絶たれたものであって,無念の情は計り知れない。
d 物的損害 68万6530円
(イ) 原告の損害
a 葬儀関係費用 266万3169円
b 固有慰謝料 500万円
原告は,二女Cを原因不明の突然死により亡くしており,その後に生まれた亡Aを二女の生まれ代わりのように感じ,愛情を注いで大事に育ててきたものである。原告は,二女を生後5か月で,亡Aを16歳という若さで見送らなければならなくなってしまったものであり,その喪失感と絶望感は筆舌に尽くし難い。加えて,被告Y1は,自身の過失により本件事故を引き起こし,それによって亡Aを死亡させたにもかかわらず,亡Aの母親である原告に対し,一切謝罪をしないどころか,逆に「(被告Y1の)子供が死んでいたらどうするんだ」などと,不誠実な発言をした。このような被告Y1の発言や不誠実な態度によって被った原告の精神的苦痛は甚大である。
(ウ) 損害のてん補
原告は,平成24年4月5日,自賠責保険から3000万4790円(傷害による損害4790円,死亡による損害3000万円)を受領した。
(エ) 確定遅延損害金 303万1175円
原告の賠償金総額は,7764万0629円となるところ,原告が自賠責保険金を受領した日までの確定遅延損害金は,以下の計算により303万1175円である。
7764万0629円×0.05×285日/365日=303万1175円
(オ) 弁護士費用 506万円
原告は,原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し,その報酬として請求元本額の1割相当額を下らない金額を支払うことを約した。原告の請求元本額は,7764万0629円に303万1175円を加算した金額から自賠責保険金額3000万4790円を控除した5066万7014円であり,したがって,原告の弁護士費用は506万円を下らない。
(カ) 合計
以上によれば,原告の損害額は合計5572万7014円となる。
イ 被告Y1の主張
仮に被告Y1に何らかの過失が認められるとしても,原告の請求は過大である。
(ア) 逸失利益について
亡Aの最終学歴は,中学校卒業であって,逸失利益を算定する前提となる基礎収入の額は,中学卒の平均賃金によるべきである。
(イ) 死亡慰謝料について
亡Aは,未だ16歳の未成年者であり,家計を支えていたわけでもないから,その死亡慰謝料は2000万円が相当である。
(ウ) 物的損害について
原告の物的損害については,被告Y2との間で毎月5万円ずつを支払う合意ができているとのことであり,損害とは認められない。
(エ) 葬儀費用について
葬儀費用は150万円が相当であり,特に増額すべき理由はない。
(オ) 原告固有の慰謝料
仮に原告固有の慰謝料が認められるとしても,500万円は高きに失する。被告Y1は,原告に対し,ことさら不誠実な態度をとっていない。
ウ 被告Y2の主張
原告の損害額については不知。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(事故態様及び責任原因)について
(1) 衝突地点及び衝突状況について
前提となる事実及び証拠(甲3の1ないし12,乙1,被告Y1本人,被告Y2本人)を総合すると,本件交差点を亀井野方面から下土棚方面に向かって直進しようとしていた本件バイクと,本件交差点を下土棚方面から土棚方面に向かって右折進行しようとしていたY1車は,本件見取図(×)地点で衝突したこと,その際,双方の車両は,Y1車の前部右バンパー付近と本件バイクの右側エンジン付近が衝突したと推認できること,上記衝突によって,被告Y2と本件バイクは進行方向左側に飛ばされ,本件バイクは右側を下にして路面を滑走し,被告Y2は本件見取図(イ)地点に,本件バイクは同(エ)地点に転倒したこと,亡Aは,進行方向左前方の渋谷ケ原公園内に飛ばされ,同(ウ)地点に倒れていたことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(2) 双方の車両の速度について
神奈川県警察科学捜査研究所の担当者は,双方の車両の損傷状況及び衝突状況に関する実況見分の結果に基づいて,本件バイクの衝突時の速度は約時速45~50キロメートル,本件交差点中央のスリップ痕印象開始時の速度は約時速50~60キロメートルと思われる,Y1車の衝突時の速度は,時速10キロメートル以下の速度と思われ,停止状態であった可能性も考えられるとしている(甲3の8)。
Y1車及び本件バイクが走行していた道路(以下「本件道路」という。)は,最高速度が時速30キロメートルに制限されていた(甲3の3)ものであるから,被告Y2は,本件事故当時,上記制限速度を大幅に超える速度で走行していたと認められる。
(3) 被告Y1の責任
ア 被告Y1は,本件事故直後の実況見分において,本件交差点の手前(本件見取図①地点)で右折の合図を出し,対向車線を見ながら減速をし,本件交差点手前の停止線付近(本件見取図②地点)で右方道路を見ながら一旦停止した後,右折を開始したが,対向車線にやや進入した地点(本件見取図③地点)で,前方約107メートル先の対向車線を走行してくる本件バイクを認めたことから,ブレーキをかけ,本件見取図④地点で停止したところ,本件バイクがY1車に衝突してきたと説明し(甲3の3),その後の事情聴取(甲3の9)及び被告本人尋問においても同様の供述をしている。
確かに,前記(2)認定のとおり,神奈川県警察科学捜査研究所の担当者は,衝突時にY1車が停止していた可能性も考えられるとしているものの,停止していたと断定しているわけではない。
また,被告Y2は,平成23年9月12日に行われた実況見分において,本件交差点に向かって直進中,衝突地点の手前約111.3メートルの地点(甲3の5添付の交通事故現場見取図②地点)で,右折の合図を出して対向車線を走行してきたY1車を発見し,衝突地点の手前約90.7メートルの地点(同③の地点)で,対向車線の本件交差点手前停止線付近(同(ア)の地点)で停止したY1車を見て,アクセルを緩めたが,衝突地点の手前約68メートルの地点(同④の地点)で加速したところ,衝突地点の手前約26.7メートルの地点(同⑤の地点)でY1車が右折を開始したことから危険を感じてブレーキをかけたが間に合わず,Y1車に衝突したと説明しており(甲3の5),その後の事情聴取(甲3の10ないし12)においても,被告本人尋問においても,一貫して,動いているY1車と衝突したと供述をしている。被告Y2の上記供述は,本件事故後に残された本件バイクのスリップ痕や双方の車両の損傷状況に照らし,格別不自然・不合理な点は認められない。
原告は,民法709条又は自賠法3条に基づいて,被告Y1に対し損害の賠償を求めているところ,少なくとも,自賠法3条に基づく請求においては,被告Y1において,自己に過失がなかったことの立証責任を負っており,被告Y1の上記供述のみによって,Y1車が本件事故当時停車した状態であったと認定することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
イ 仮に,被告Y1が本件バイクと衝突した時点で停止していたとしても,道路交通法上,自動車等は,右折するときは,あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り,かつ,交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならず(同法34条2項),また車両等は,交差点で右折する場合において,当該交差点において直進し,又は左折しようとする車両等があるときは,当該車両等の進行妨害をしてはならない(同法37条)とされているところ,前記(1)認定の事実によれば,被告Y1は,上記右折方法に違反した上,対向車線に約1.6メートル進入したために,本件バイクと衝突したと認められ,この点に過失があることは明らかである。
ウ この点につき,被告Y1は,Y1車の一部が対向車線にはみ出していたとはいえ,Y1車の右側には,路側帯を入れて2.3メートルという十分通行可能なスペースがあったのであるから,被告Y2が制限速度に従って走行していれば,適切にハンドル操作を行うことによって,容易にY1車の左側を通行することができたと主張している。
確かに,前記(2)認定のとおり,被告Y2は,本件事故当時,制限速度を大幅に超える速度で走行しており,また証拠(甲3の3)によって認められるスリップ痕の位置等に照らすと,被告Y2は,本件道路の左側に寄らないで走行していたと認められる。
しかしながら,本件事故が発生したのは夜間(午後9時45分ころ)であり,証拠(甲3の3)によれば,本件交差点は,マンションや民家が建ち並ぶ住宅街にあり,本件道路は,Y1車が進行していた方向からも,本件バイクが進行していた方向からも,前方の視界を妨げるものはなく見通しはよいが,本件交差点内に水銀灯の設備はなく,本件道路沿いに街路灯が点在して設置されているだけであるため,夜間は薄暗く,車両のライトの照射範囲内であれば車両及び歩行者等の識別が可能であるが,照射範囲外であれば識別は不可能であることが認められ,このような視認状況からすると,短時間のうちに,Y1車の位置及び自車の通行可能なスペースを正確に把握し,ハンドルを適切に操作して,Y1車との衝突を回避することが容易であったとまではいえないというべきである。
エ また,被告Y1は,そもそも被告Y1がY1車の一部を対向車線にはみ出すような形で停止せざるを得なかったのは,本件バイクが制限速度をはるかに超える異常な速度で走行していたことに起因するのであって,被告には過失がないと主張する。
しかしながら,証拠(甲3の3)によれば,Y1車から見て,本件交差点からは,約300メートル先の亀井野方面の最初の信号機により交通整理の行われている交差点から進行してくる2灯式の光源を持つ車両と1灯式の光源を持つ二輪車のライトの光を十分視認することができたと認められるから,被告Y1が右折を開始した本件見取図③地点よりも前に,一旦停止をしたとする本件見取図②地点において,対向車線の安全を十分に注意していれば,対向車線を走行してくる本件バイクを確認することができたはずであり,慎重を期するのであれば,同地点で停止することにより,本件バイクとの衝突を回避することは可能であったと認められる。
また,本件見取図③地点において初めて本件バイクに気づいたとしても,その時点におけるY1車と本件バイクとの間の距離は約107メートルあり,本件バイクが時速70キロメートル(秒速約19.4メートル)で走行していたとしても,本件バイクが到達するまで約5.5秒の時間があるから,被告Y1において,本件バイクと衝突することなく本件交差点を右折することは十分可能であったと認められる。
したがって,被告Y1が本件バイクの進路を妨害したことが本件バイクの速度超過のみに起因するとは認められず,むしろ,Y1車が衝突の時点で交差点内で停止していたとすれば,被告Y1は,右折に際し,対向車の動静に注意し,同車との安全を確認すべき義務を怠ったものといわざるを得ない。
オ 以上によれば,少なくとも,被告Y1が自動車の運行に関し注意を怠らなかったことを証明した(自賠法3条ただし書)とは認められないことは明らかであり,民法709条の過失責任があると認められる。
(4) 被告Y2の責任
被告Y2は,本件事故につき,被告らに過失があることを認めており,過失を基礎づける具体的な事実についても,争うことを明らかにしていないから,これを自白したものとみなす。
(5) 以上によれば,本件事故は,被告らの共同不法行為によって発生したものであり,被告らは,原告に対し,本件事故によって生じた損害につき,連帯して賠償すべき責任を負う。
2 争点2(過失相殺の当否及び過失割合)について
(1) 前提となる事実及び証拠(甲3の10ないし13,甲9,原告本人,被告Y2本人)によれば,以下の事実が認められる。
ア 被告Y2は,亡Aよりも1学年下であり,亡Aとは地元の遊び仲間を通じて,平成23年1月か2月ころに知り合い,先輩後輩というよりも友達として付き合っていた。
イ 亡Aは,平成23年3月24日に自動二輪車の免許を取得し,原告及び亡Aの姉から,本件バイクを買ってもらった。
ウ 被告Y2は,本件事故当時15歳であったため,自動二輪車を含め一切免許を持っていなかったが,もともとバイクが好きで,14歳のころからバイクの運転をしたことがあり,その中には,本件バイクと同じクラッチ付きのバイクも含まれていた。被告Y2は,亡Aが所有していた本件バイクを,本件事故前に3,4回運転させてもらったことがあったが,いずれも近くのコンビニやガソリンスタンドまでであり,長時間あるいは長距離を運転させてもらったことはなかった。
エ 被告Y2は,本件事故当日,友人らとともに遊ぶつもりで,友人方前の駐車場にいたところ,亡Aが本件バイクを運転して来て,本件バイクを駐車場に止めた。被告Y2は,ステップを立てて駐車中の本件バイクの座席に座って友人らと話をしていたところ,亡Aが本件バイクの後部座席に乗り,近所のビデオショップに駐車してあるバイクを見に行こうと言って誘った。被告Y2は,何度か断ったが,亡Aから何度も誘われたことから,被告Y2も亡Aもヘルメットを被らないまま,亡Aを後部座席に乗せた本件バイクを発進させ,約550メートル走行した本件交差点において,本件事故に遭った。
(2) 前記(1)の事実を総合すると,被告Y2は,本件事故当時,未だ15歳であって,いかなる免許も有しておらず,本件バイクを含むクラッチ付きのバイクを運転した経験があったとはいえ,自動二輪車の運転に習熟していたとは認め難く,亡Aもまた,そのことを十分に認識しながら,被告Y2に本件バイクを運転するよう積極的に誘い,これに同乗したものと認められる。
前記1認定にかかる本件事故の態様及び被告Y2の過失の態様等を総合すると,被告Y2が自動二輪車の運転に習熟しておらず,注意力や判断力も未熟であったことが本件事故の一因であったことは明らかというべきである。そして,そうであるとすると,亡Aが,被告Y2に対しスピード違反を煽るなど,事故発生の危険を直接増大させるような行動をとったとは認められないとしても,亡Aにおいて,事故発生の危険性が高い状況が存することを知りながらあえて,被告Y2に本件バイクを運転するよう誘い,これに同乗したものとして,被告Y2に対する関係のみならず,被告Y1との関係においても,過失があったといわざるを得ない。
(3) 他方で,本件事故当時,亡Aがヘルメットを被っていなかったことについては,亡Aの死亡の原因が肝臓破裂,骨盤内損傷による出血死にあり,亡Aの頭蓋内に異常はなかったこと(甲8)から,そのことが損害の拡大に影響を及ぼしたとは認められず,したがって,亡Aの過失として考慮するのは相当でない。
(4) 以上の点に,本件事故の態様及び被告らの過失の態様を総合考慮すると,亡Aの過失割合は10パーセントと認めるのが相当である。
3 争点3(原告の損害額)について
(1) 亡Aに生じた損害
ア 治療費 88万6960円
証拠(甲4,原告本人)及び弁論の趣旨によれば,亡Aの本件事故による傷害の治療費として88万6960円を要したことが認められる。
イ 逸失利益 4340万3970円
証拠(甲3の13,甲9,原告本人)によれば,亡Aは,中学卒業後,私立高校に進学したものの,働いて家計を助けたいと言って平成23年3月に退学し,その後は引越しセンターでアルバイトをしたり,実父のもとでアルバイトをしていたこと,解体業の会社に就職を希望して面接に出かけたが,18歳になったら雇うと言われ,将来は働いて母親である原告の面倒を見たいと話していたことが認められ,これらの事情を総合すると,亡Aには,男性労働者の全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があったと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。したがって,亡Aの基礎収入は,平成23年の賃金センサス(男性労働者・学歴計・全年齢平均)により526万7600円と認められる。
亡Aの生活費控除率は50パーセント,就労可能年数は18歳から67歳までの49年間(ライプニッツ係数は16.4796)と認められるから,亡Aの逸失利益は4340万3970円となる。
ウ 死亡慰謝料 2000万円
亡Aは,本件事故により,16歳の若さで突然生命を絶たれる結果となったものであり,本件事故によって亡Aが被った精神的・肉体的苦痛は多大であったと認められ,これらの苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額としては,2000万円が相当と認められる。
エ 物的損害 68万6530円
前提となる事実,証拠(甲5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故によって亡A所有にかかる本件バイクが損傷し,その損害額は68万6530円であることが認められる。
(2) 原告に生じた損害
ア 葬儀関係費用 150万円
証拠(甲6の1ないし36)によれば,原告は,亡Aの葬儀関係費用として266万3169円を支出したことが認められるが,葬儀関係費用の額は,遺族の心情等によって左右されることなどを考慮すると,支出した費用の全額につき事故との相当因果関係を認めるのは必ずしも相当でなく,亡Aの年齢や家族関係,交友関係等,諸般の事情を考慮すると,上記のうち150万円につき,本件事故との間に相当因果関係があると認められる。
イ 固有の慰謝料 300万円
(ア) 原告は,突然の事故によって,それまで慈しみ育ててきた亡Aを失ったものであり,その精神的苦痛は甚大である。原告は,本件事故後,抑うつ気分,気力低下等を訴えてメンタルクリニックに通院し,平成26年2月にはうつ病と診断されている(甲10)。このような原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額としては,300万円が相当と認める。
(イ) 証拠(甲3の14,甲9,乙1,原告本人,被告Y1本人)によれば,被告Y1は,亡Aの葬儀や告別式に参列することもなく,原告から謝罪を求められてもこれに応じず,自分は止まっていたのだから悪くない,自分の車にも子供が乗っていたのだから怪我をする可能性があったなどと述べたことが認められる。被告Y1の原告に対する言動は,相手に対し自己の主張を理解してもらおうとすることのみに終始し,本件事故によって亡Aを亡くした原告の心情に対する配慮を欠いたものであり,不適切であったといわざるを得ないが,本件事故の態様等を考慮すると,上記慰謝料額を増額すべきとまでは認められない。
(3) 過失相殺
以上によれば,原告の損害額は,合計6947万7460円となるところ,前記3認定のとおり,亡Aにも10パーセントの過失が認められるから,これに相当する額を控除すると,過失相殺後の原告の損害額は,6252万9714円となる。
(4) 損害のてん補
ア 弁論の全趣旨によれば,原告は,被告Y2から物的損害68万6530円のてん補を受けており,亡Aと被告Y2との関係に照らすと,これを損害額の元本に充当する旨の合意があったものと推認される。
イ また,原告は,平成24年4月5日に自賠責保険から3000万4790円を受領しているところ,同額は,過失相殺後の原告の損害額6252万9714円から前記アの68万6530円を控除した6184万3184円に対する本件事故の日から平成24年4月5日まで286日の確定遅延損害金242万2897円に充当し,その余につき損害額元本に充当すべきである。
ウ 以上によれば,原告の損害額は,3426万1291円となる。
(5) 弁護士費用 340万円
本件事故の態様,原告の請求額,上記損害額を考慮すると,本件事故との間に相当因果関係があると認められる弁護士費用の額は,上記損害額の約1割に相当する340万円が相当であり,これを加算すると,原告の損害額は,3766万1291円となる。
4 結論
以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,3766万1291円およびうち3426万1291円に対する自賠責保険金受領の日の翌日である平成24年4月6日から,うち340万円に対する本件事故の日である平成23年6月25日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし,その余については理由がないからこれを棄却することとする。
なお,被告Y1申立てにかかる仮執行免脱の宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第6民事部
裁判官  吉田 彩



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