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自転車と自動車の交通事故

一般的には、交通事故における賠償金としては、認定の為には弁護士による裁判が必要になる事件。(自転車と自動車の交通事故)

専業主婦の休業損害の賃金センサス女子学歴計の基準を、家事や介護をしている夫にも当てはめた上で「専業主夫」として休業損害を認めた。専業主夫で無職であるが逸失利益においては就労できている場合の収入の基準を採用して、一部認容としているが、内容的には、ほぼ満額認定されていると思われる事例

 

 

 

事件番号 横浜地方裁判所判決 平成24年(ワ)第5188号

判決日 平成26年2月28日

 

       主   文

 

 1 被告は,原告に対し,339万8271円及びこれに対する平成24年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は,これを4分し,その3を被告,その余を原告の負担とする。

 4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   被告は,原告に対し,471万0803円及び内金458万7628円に対する平成24年12月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

   本件は,原告が,被告に対し,交通事故により頚椎捻挫等の傷害を被った旨主張して,民法709条に基づき,損害元金458万7628円及びこれに対する最終的な保険金受領日の翌日(平成24年5月26日)から本件訴訟提起の前日(平成24年12月7日)までの確定遅延損害金12万3175円の合計471万0803円,並びに損害元金458万7628円に対する本件訴え提起日(平成24年12月8日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(なお,原告の請求は,「被告は,原告に対し,458万7628円及びこれに対する平成24年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と読み替えることができる。)。

 1 前提事実(争いのない事実)

  (1) 原告は,次の事故(以下「本件事故」という。)により負傷した。

    発生日時 平成23年5月20日午後1時0分頃

    発生場所 神奈川県茅ヶ崎市赤羽根357番地1先の新湘南バイパス側道の路上(以下「本件現場」という。)

    被告車  自家用普通貨物自動車(以下「被告車」という。)

    事故態様 原告が,本件現場の横断歩道上を自転車を押して南に向かって歩行していたところ,被告運転の被告車が同側道を西方向へ直進し,原告に衝突した。原告は,咄嗟に体の向きを変え,被告車に背を向ける形で身構えたところ,被告車のフロント中央部及びバンパーが原告の下半身から背中にかけて衝突した。

    傷害   原告は,本件事故により頚椎捻挫及び腰部挫傷の傷害(以下「本件傷害」という。)を負い,左頚部痛及び腰痛の自覚症状がある。

  (2) 責任原因

    原告が,本件現場の横断歩道を横断していたのであるから,このような場合,被告は,横断歩道の直前で一時停止し,かつ,その進行を妨げないようにしなければならない注意義務がある(道路交通法38条)のに,これを怠り,被告車を原告に衝突させたのであるから,被告は,原告に対し,不法行為に基づき,本件事故による損害賠償責任を免れない。

  (3) 原告は,少なくとも平成23年5月20日から平成24年1月7日まで,ともの整形外科クリニックに通院した(実通院日数141日)。

  (4) 本件傷害は,平成24年1月7日,症状が固定した。

  (5) 原告には,左頚部痛及び腰痛(医学的に説明可能な痛みやしびれが持続)により後遺障害等級14級9号の後遺障害が存在する。

  (6) 原告は,本件事故により少なくとも次の損害を被った。

   ① 治療費   52万4200円

   ② 通院交通費 15万6440円

  (7) 既払金

    原告は,自賠責保険から合計140万9500円(65万9500円,75万円)の支払を受けた(原告の自認事実)。

 2 争点及び当事者の主張

 【原告】

  (1) 休業損害 135万5354円

   ア 基礎収入

     原告は,「専業主夫」として家事・介護に従事していたのであるから,年収345万9400円(平成22年賃金センサス女子学歴計),1日当たり9478円の損害を被った。

   イ 休業日数(①と②の合計143日)

    ① 労働能力喪失による休業

      労働能力喪失率を本件事故日時点では100パーセント,通院期間末日時点では5パーセントとみて,通院期間は平成23年5月20日から平成24年1月7日までの233日であるから,少なくとも上記日数の2分の1である116日間は休業期間とみるべきである。

    ② 通院による休業

      原告は,通院に3時間程度を要し,その間は休業せざるを得ないから,実通院日数143日に3/8(通院時間/法定労働時間)を乗じ,通院に要した時間を算定すると,54日(小数第1位四捨五入)となるところ,①との重複を避けるために2分の1を乗じると27日となる。

   ウ 「専業主夫」として稼働した理由

     原告は,実母A(以下「実母」という。)がパーキンソン病に罹患し,要介護状態であったことから,午前中に自宅の家事を3,4時間,午後に実母のための家事(介護)を約4.5時間から5.5時間(実母宅と自宅の往復時間約1時間を含む),夕刻から自宅の家事を2,3時間行っていたものであり,平均1日当たり10ないし11時間の家事労働をしていたところ,本件事故により,上記家事に支障が生じた。

    ① 家事が不能な時期

      本件事故から約3か月間は全く家事ができず,特に腰痛及び頚部痛により炊事洗濯ができなかった。

    ② 平成23年9月1日以降,ゴミ出し,風呂掃除等を徐々に行うようになり,食事の準備も惣菜や冷凍食品等を活用して簡単に用意できるものから始めた。

    ③ 同年10月1日以降,食事の片づけや洗濯等も休みながら行うようになった(労働能力喪失率20パーセント)。

    ④ 同年11月1日以降,食事の準備も幅が広がり,また,買物等の家事も可能になった(同40パーセント)。

    ⑤ 同年12月以降,だいぶよくなり,掃除も開始し,家事全般もこなすようになった(同65パーセント)。

    ⑥ 平成24年1月以降,通院も終了し,母の介護も再開した(同90ないし95パーセント)。

    ⑦ 以上に加え,通院期間233日中,実通院日数143日間が休業日数に当たる。

   エ 以上によると,休業損害は1日当たり9478円の143日分である135万5354円が相当である。

  (2) 通院慰謝料 100万8333円

    通院期間233日であり,通院慰謝料としては同金額が相当である。

  (3) 逸失利益 119万7155円

   ア 前提事実のとおり後遺障害等級14級であるから,労働能力喪失率は5パーセントであり,その期間を5年間とみるべきである。

   イ 原告は,平成24年に復職しており,就労の意思も能力もあるから,退職前の賃金である平成20年の給与支払金額567万2446円(甲7)と平成21年の給与支払金額538万8000円(甲8)の平均553万0223円を基礎収入として算定すべきである。

   ウ ア,イによると,原告の逸失利益は119万7155円である。

   (計算式) 553万0223円×労働能力喪失率0.05×ライプニッツ係数4.3295

  (4) 後遺障害慰謝料 110万円

    後遺障害等級14級相当であるから,後遺障害慰謝料は110万円となる。

  (5) 前提事実(6)の損害額と上記(1)ないし(4)の合計額は534万1482円となるから,既払金65万9500円を控除すると,468万1982円である。

    その後,平成24年5月25日,後遺障害保険金75万円の支払を受けたから,人身損害額について発生した遅延損害金23万8589円に充当し,その余の51万1411円を人身損害額の元本に充当すると,平成24年5月26日の時点では,原告の人身損害額元金は417万0571円となる。

  (6) 弁護士費用 41万7057円

  【被告】

   争う。原告主張の休業損害については,その請求する根拠及び明細すら不明であり,通院時間を労働能力喪失による休業期間と区別して捉える合理性は存しない。また,復職が認められるとしても,原告は,自己が家事労働者であることを前提として休業損害を主張しているのであるから,同事案において失業者であることを前提とする逸失利益の算定を認めることは相当ではない。

第3 争点に対する判断

 1 前提事実,甲第4ないし6号証,第9ないし11号証,第15,第18,第19号証,証人B及び原告の各供述と弁論の全趣旨によると,①原告の実母は,平成14年3月にパーキンソン病に罹患し,原告は,実家で実母と同居生活をしていたこと,②原告は,平成20年5月頃,実家を出て実母と別居したが,その頃から,実母のパーキンソン病の症状が悪化し,鬱状態もみられるようになったこと,③原告は,当時,C株式会社(以下「C」という。)に勤務しながら,実家に赴いては,実母の身の回りの世話・家事(食事,着替え,入浴,洗濯,買物,月1度の通院の付添等)をしていたところ,原告の妻B(以下「B」という。)は,平成21年12月10日から派遣社員(月収約20万円)として勤務するようになったこと(Bは,従前から外に出て働きたいという希望を抱いていた。),④以上の経過の中で,原告は,Cの勤務と実母の世話の両立が次第に困難になったことから,平成22年1月終わり頃,Bと協議し,暫くの間(1,2年程度を予定),Cを休職し,自宅の家事(食事の用意と片付け,洗濯,掃除,風呂の用意,ペットの世話等)と実母の世話に専念することになったこと,⑤以後,原告は,自宅の家事をしながら,実家に赴いては実母の世話等をしていたが,同年8月頃,家事と両立可能な範囲で,週に1,2日程度稼働したいと考え,D会の会員となり「E」の屋号で運送業を開始したものの,採算が合わないことから2か月ほどで廃業し,自宅の家事と実母の世話に専念したこと,⑥同年10月15日,Cの休業期間が満了することになったが,原告は,復職せずにそのまま退職し,以後,家事に専念していたこと,⑦平成23年5月20日,原告は,本件事故により本件傷害を負ったため,家事等に従事することは困難となったものの,次第に症状が改善し,同年12月頃から家事等の大半が可能となり,平成24年1月には,自ら実母の世話等も再開したこと,⑧原告は,実母の状態も次第に落ち着いたことから,同年4月以降,週2回の訪問介護を依頼した上,自らはフルタイムでFに就職し,1か月当たり額面25万円の給与を得るようになったが,同年9月末で退職し,次いで,株式会社Gに同年11月11日から平成25年5月10日まで6か月間の短期労働契約に基づき勤務したこと,⑨その後,原告は,求職活動をしているが,不就労状態が継続していることが認められる。

 2 損害

  (1) 休業損害 88万3256円

    今日の社会では,夫婦の経済生活のあり方は多種多様であり,妻が就労して賃金を得ることで経済基盤を支え,夫が「専業主夫」として家事に専念する形態もあり得ることであるから,「専業主夫」が交通事故により家事労働が不可能ないし困難になった場合には,その損害を休業損害として請求できるというべきである。

    これを本件についてみると,上記1認定のとおり,原告は,平成22年1月終わり頃,Bと協議し,原告が休職の上,自宅の家事と実母の世話等を担当し,Bは就労を続けることを合意し,以後,原告は,「専業主夫」として専業主婦と同視できる程度の家事労働に従事していたところ,本件傷害により,上記家事等の全部ないし一部が困難になったことが認められるから,原告は,被告に対し,休業損害を請求できると認めるのが相当である。

    そして,原告の「専業主夫」としての休業損害の算定に際しては,原告の援用する平成22年女子学歴計の賃金センサスに従って年収を345万9400円(平成23年の同センサスよりも低額),日額を9477円(円未満切捨。以下同様)とした上,休業日数を本件事故発生日である平成23年5月20日から症状固定時である平成24年1月7日までの233日間とし(前提事実(3)),労働能力喪失率については,本件傷害は漸次回復するものであるし,原告は平成23年12月頃から家事の大半が可能になるほどに回復したことを考慮すると,休業期間中の平均的な労働能力喪失率を4割と認めるのが相当であり,これらを前提として休業損害を算定すると,88万3256円(日額9477円×233日×0.4)となる。

  (2) 通院慰謝料 100万8333円

    前提事実(3)のとおり,原告は,ともの整形外科クリニックに平成23年5月20日から平成24年1月7日までの間に141日間通院したことを考慮すると,通院慰謝料は,原告主張の100万8333円を下らない。

  (3) 逸失利益 64万9425円

   ア 前提事実(5)のとおり,原告の後遺障害等級は14級9号であるから,その労働能力喪失率は5パーセントであり,本件傷害による左頚部痛及び腰痛の自覚症状が消失していないことを考慮すると,症状固定時から5年の限度で逸失利益を認めるのが相当である。

   イ そこで,基礎収入について検討するに,上記1認定のとおり,原告はBとの間で,平成22年1月の終わり頃,1,2年の約束で,原告において「専業主夫」に従事することを合意し,現に原告は,症状固定時の平成24年1月7日と近接する同年4月,月収25万円のフルタイムの従業員としてFに就職したこと,原告は,同就職先を同年9月限り退職後,同年11月11日から6か月間の約定で別会社に勤務し(給与額を窺わせる証拠はない。),以後,求職活動をしているが,不就労状態が継続していることが認められ,これらの事実に照らすと,原告の基礎収入は,月額25万円を下らないと認めるのが相当である。

     原告は,Cに就職していた当時の平成20年及び平成21年の給与の平均553万0223円を基礎収入として算定すべき旨主張するが,同収入は,症状固定時である平成24年1月の数年前の収入にすぎないこと,上記1認定のとおり,原告は,本件事故前に自らの意思で同社を退職し,フルタイムで勤務したが,月給25万円(額面)を取得できたにすぎないことを考慮すると,採用することができない。

   ウ 以上によると,原告の基礎収入は,月額25万円,年額300万円を下らないところ,同収入を得るには,5パーセント相当の労働能力の喪失を補うだけの原告の努力が必要であると認めるのが相当であるから,これを逸失利益の対象とし,5年間の逸失利益を64万9425円の限度で認めるのが相当である。

    (計算式) 300万円×0.05×4.3295

  (4) 後遺症慰謝料 110万円

    前提事実(5)のとおり,原告は,本件傷害により14級の後遺障害が残ったものであるから,これを慰謝するには110万円が相当である。

 3 前提事実(6)の損害額68万0640円と上記2の損害額364万1014円を合計すると,432万1654円となる。

 4 損害の填補(既払金を原告の指定する方法を踏まえて充当計算)

  (1) 432万1654円-65万9500円=366万2154円

  (2) 既払金75万円を(1)の366万2154円に対する遅延損害金18万6117円(なお,平成23年5月20日〔事故発生日〕から平成24年5月25日〔自賠責保険支払日〕までの間の遅延損害金は,366万2154円×0.05×371/365により18万6117円となる。)に充当すると,残金は56万3883円であり,同残金を元本366万2154円に充当すると,平成24年5月26日までの残元金は309万8271円である。

 5 弁護士費用 30万円

   原告が,本件訴訟の提起,追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり,事案の性質,認容額,難易度等を総合勘案すると,弁護士費用としては,30万円が相当である。

 6 以上によると,本件請求は,339万8271円及びこれに対する平成24年5月26日(最終的な保険金受領日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

    横浜地方裁判所第6民事部

           裁判官  市村 弘

 

横浜地方裁判所 平成24年(ワ)第5188号 損害賠償請求事件 平成26年2月28日

 

 

 

 



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