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複合性局所疼痛症候群(CRPS)を認定した事件

横浜地方裁判所判決 平成23年(ワ)第1980号

判決日 平成26年4月22日

 

 

複合性局所疼痛症候群(CRPS)を認定した事件

RSDやCRPSを認めた重要判例

       主   文

 

 1 被告は,原告に対し,9459万0777円及びうち9349万8025円に対する平成18年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求(平成24年7月2日付け訴えの変更申立書(5)による変更後のもの)

  被告は,原告に対し,2億0862万8974円及びうち2億0753万6222円に対する平成18年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

  本件は,被告が保有し,運転する車両が原告の運転する車両に追突した交通事故(以下「本件事故」という。)により,原告が,頚部捻挫の傷害を負った上,反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)ないし複合性局所疼痛症候群(CRPS)Ⅰ型等の後遺障害を負ったと主張して,被告に対し,自賠法3条に基づく損害賠償を求めた事案である。

 1 前提事実

  (1) 本件事故の発生

    平成18年11月24日午後4時40分頃,神奈川県小田原市飯泉438番地の4所在の小田原厚木道路小田原料金所手前で,原告が運転する自家用普通乗用自動車(足立○○○に○○○○。以下「原告車両」という。)が渋滞の最後尾に停止していたところ,被告が運転する自家用普通乗用自動車(湘南○○○ね○○○○。以下「被告車両」という。)が原告車両に追突した。

  (2) 責任原因

    被告は,本件事故当時,被告車両を保有し,かつ,自己のために運行の用に供していたから,自賠法3条に基づき,原告に対し,本件事故によって生じた損害を賠償する責任を負う。

  (3) 自賠責保険及び任意保険の支払

   ア 損害保険料率算出機構は,平成20年12月18日付け「自動車損害賠償責任保険 後遺障害等級のご案内」(甲6)において,原告の後遺障害をRSDに起因した自賠法施行令別表第二(以下「別表第二」という。)7級4号に該当するとの判断を示し,被告の自賠責保険会社は,平成20年12月22日,原告に対し,自賠責保険金として1051万円を支払った。

   イ 被告の任意保険会社は,原告に対し,平成19年1月9日から平成21年6月24日までの間に,任意保険に基づく保険金として合計425万6471円を支払った。

 2 争点及び当事者の主張

  (1) 原告のCRPS発症の有無,内容及び程度

   (原告の主張)

   ア CRPSの発症

    (ア) 原告は,本件事故による後遺障害として,右上肢及び右下肢にCRPSを発症した。

      このことは,原告を診察した医師がいずれも原告をCRPSと診断していることから明らかである。

    (イ) CRPSの罹患の有無は,ギボンズの診断基準,国際疼痛学会の診断基準又は厚生労働省のCRPS研究班の診断基準によって判断すべきである。

      被告は,CRPSの判定には骨萎縮の有無を重視すべきであるとするが,国際疼痛学会が2005年に提唱したCRPSの診断基準及び厚生労働省のCRPS研究班の診断基準では,骨の萎縮は診断基準とされておらず,ギボンズの診断基準には,「X線上の変化」,「骨シンチグラフィーで骨萎縮」の診断項目があるものの,10項目につき全体で5点以上となれば確定的にCRPSであるとされるのであり,これらの診断項目が陽性であることが必須ではない。

      そして,原告の主治医であるA医師(以下「A医師」という。)によれば,上記いずれの診断基準によっても,原告はCRPSと診断することができる。

    (ウ) 自賠責等級認定上のCRPS認定基準に含まれる3要件(関節拘縮,骨萎縮,皮膚の変化)は,CRPSの認定に必要なものではないが,以下のとおり,原告の症状は,上記3要件も満たしている。

     a 関節拘縮

       A医師は,原告が患部を長期にわたって動かしていないことから,関節拘縮があるとしており,この判断は信頼できる。

     b 骨萎縮

       A医師は,平成20年1月11日に撮影された単純X線画像診断の結果,原告の右上肢について,軽度の骨脱灰を認めている。

       また,骨萎縮が認められないとしても,CRPSの患者において骨萎縮が生じない例も報告されているほか,原告は,平成21年6月からビスホスホネート製剤を服用しており,これにより骨萎縮を防止する効果があったとみるべきであるから,CRPSの発症を否定する理由にはならない。

     c 皮膚の変化

       原告の右上下肢の皮膚温及び皮膚の色調には,左上下肢に比較して明らかな変化がある。

   イ 内容及び程度

    (ア) 関節可動域による評価

      原告は,CRPSによって発生する疼痛により,右上肢,右手指,右下肢,右足指のそれぞれ全ての関節が自動,他動ともに不可能な状態にある。したがって,右上肢,右下肢の用を廃したものとしてそれぞれ別表第二5級相当と評価し,これらを併合して別表第二併合2級相当と評価すべきである。

    (イ) 神経系統の機能としての評価

      原告のCRPSによる右上下肢の全廃状態を全体としてみれば,原告は,「神経系統の機能に著しい障害を残し,随時介護を要する」状態に陥ったといえ,自賠法施行令別表第一(以下「別表第一」という。)2級相当と評価すべきである。

   (被告の主張)

   ア CRPSの発症

    (ア) 後遺障害の認定に当たっては,臨床現場における治療上の基準と異なって,客観的に認められる所見から後遺障害の有無・程度を判断しなければならない。

      CRPSによる疼痛が重度で,廃用状態が継続すれば,いずれ関節拘縮や骨の萎縮が生じるのであるから,CRPSの発症が認められるためには,これらの事実が認められるか,又は認められない理由が補完されなければならない。

    (イ) 原告の右上下肢に関節拘縮は確認されていない。A医師は,原告が右上下肢を動かしていないことを前提に関節拘縮を推測しているにすぎないし,原告には,使えないはずの右手を使っているなどの矛盾行動がみられること,原告が麻酔を使用しての可動域の測定を不自然に拒否していることからも,関節拘縮は否定することができる。

    (ウ) 平成20年1月11日に撮影された手のX線画像は,脱灰所見はないといえるものであり,同年4月16日に撮影された上肢の骨シンチグラフィーにおいても,平成22年2月22日に撮影された下肢のX線画像においても,脱灰の所見はなかった。

      ビスホスホネート製剤の服用は,疼痛が回復し,理学療法と併用する中でその効果を発揮し,骨萎縮が改善するのであって,原告の主張するような寝たきりに近い状態で骨萎縮を防ぐ効果があるとは考えられない。

      原告が疼痛を理由に右上肢のX線画像の撮影及びDEXAによる骨の状態の検査を中断したことも不自然であり,原告は,不利な画像により実態が明らかになることをおそれ,意識的に撮影させないようにしているとしか考えられない。

   イ 内容及び程度

     原告の主張する後遺障害には,他覚所見が存在せず,原告の身体の機能が障害されていると言い難い。したがって,後遺障害の残存が認められるとしても,その程度は別表第二14級相当である。

  (2) 症状固定日

   (原告の主張)

    原告の病状は,平成20年5月12日以降も悪化の一途をたどっており,実質的な症状固定日は,平成22年2月6日である。

   (被告の主張)

    実質的症状固定日なる概念は不明確である。本件においては,平成20年5月12日,同月26日,平成21年8月31日をそれぞれ症状固定日とする後遺障害診断書があるが,これらを経て医師による医学的判断は完結したとみるべきであるから,遅くとも同年8月31日を症状固定日とみるべきである。

  (3) 損害額

   (原告の主張)

   ア 治療費 309万0287円

    (ア) 保険会社による既払額 242万2501円

    (イ) 実質的症状固定日までに原告が支払った治療費 66万7786円

    (ウ) 胃潰瘍関係治療費(損害額から控除) 8万8530円

   イ 通院付添費 118万7339円

     原告は,各種医療機関に通院する際,右下肢の疼痛のため,一人で歩行することができなかったので,移動のための付添いを付ける必要性があった。

    (ア) 実質的症状固定日前 76万9413円

    (イ) 実質的症状固定日後 41万7926円

   ウ 介護費 6097万8563円

     原告は,右上下肢が強度の疼痛によって動かせない状態にあるから,日常生活を送るためには介護を受ける必要性がある。

    (ア) 支出済みの介護費 757万9632円

    (イ) 将来介護費 5339万8931円

      原告は,平成21年と平成22年の2年間で,753万1472円の介護費を支出した。したがって,原告には,年間376万5736円の介護費が発生すると見込まれる。

      症状固定時47歳からの平均余命34年(ライプニッツ係数16.193)について見込まれる介護費は,支出済みのものを含めて6097万8563円(小数第1位を四捨五入。以下同様)となり,そのうち,未支出のものは5339万8931円である。

   エ 入院雑費 6万円

     入院雑費は1日当たり1500円であるところ,40日間入院したから,6万円が認められるべきである。

   オ 通院費 22万5060円

    (ア) 既払額 16万6100円

    (イ) 原告が支出済みの交通費 5万8960円

   カ 家屋改造費 119万1000円

     原告は,壁を撤去して車いすで容易に便器に移れるようにすること,車いすが通りやすいように廊下の幅を拡張すること,段差のある和室を改造して段差のない居室とすることを目的として,家屋の改造を行った。

     公的補助を除いた上記改造工事の自己負担額は,119万1000円であった。

   キ 装具・備品購入費 393万8418円

    (ア) 購入した装具・備品代金 147万4322円

    (イ) 将来装具費 246万4096円

      電動車いす 耐用年数8年での買換合計 129万9258円

      介護ベッド 耐用年数6年での買換合計 116万4838円

   ク 休業損害 2299万4604円

     原告の事故前年である平成17年度の年収は,727万3104円であったところ,本件事故発生日から実質的症状固定日までの1170日のうち,出勤した16日を除いた1154日は出勤することができなかった。

     原告は,上記1154日につき,日額1万9926円で日割り計算した2299万4604円の休業損害を被った。

   ケ 入通院慰謝料 300万円

     原告は,本件事故により,本件事故発生日から実質的症状固定日まで入院40日,通院3年2か月を要する傷害を負ったから,その精神的苦痛を慰謝するには,300万円が相当である。

   コ 逸失利益 9063万7422円

     原告の事故前年の収入は727万3104円であるところ,原告は,本件事故の後遺障害により,労働能力を100パーセント喪失しており,実質的症状固定日47歳から67歳までの20年間(ライプニッツ係数12.462)の逸失利益は9063万7422円である。

   サ 後遺障害慰謝料 2400万円

     原告が本件事故により負った後遺障害は,別表第二併合2級に相当するから,その精神的苦痛を慰謝するには,2400万円が相当である。

   シ 既払金 1476万6471円(前提事実のとおり)

   ス 弁護士費用 1100万円

     本件と相当因果関係を有する弁護士費用は,1100万円である。

   セ 自賠責保険金支払までの確定遅延損害金 109万2752円

     原告は,平成20年12月22日,自賠責保険金として1051万円の支払を受けた。本件事故発生日から同日までの759日間に発生した,当該支払部分に対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金を日割り計算すると,109万2752円である。

   ソ 合計

     2億0862万8974円(うち109万2752円は確定遅延損害金)

   (被告の主張)

   ア 治療費

     治療費は保険会社が支払済みである。これ以外に原告が症状固定日までの治療費として請求するものは,必要性を争う。

     症状固定日後の治療費は,因果関係を争う。

   イ 通院付添費

     争う。原告の傷病の程度に鑑みれば,付添いの必要性は認められない。

   ウ 介護費

     争う。同様に,介護の必要性は認められない。

   エ 入院雑費

     争う。原告には入院の必要性が認められない。

   オ 交通費

     争う。交通費は保険会社が支払済みであり,これ以外に交通費が必要であった理由が明らかではない。

   カ 家屋改造費

     争う。原告が行った家屋改造は,車いすでの移動を目的にされたものであるが,下肢についての後遺障害は認められないので,家屋改造の必要性は認められない。

   キ 装具・備品購入費

     争う。ほとんど全てが下肢の障害を前提としたものであるが,下肢についての障害は認められない。

   ク 休業損害

     争う。原告に認められる休業損害は,せいぜい症状固定日までであり,原告の傷病の程度からすれば,症状固定まで全期間の休業損害は認められない。

   ケ 入通院慰謝料

     争う。症状固定日までの通院慰謝料のみが相当である。

   コ 逸失利益

     争う。後遺障害の残存が認められるとしても,別表第二14級に相当する喪失率を前提とする逸失利益が相当な損害額である。

   サ 後遺障害慰謝料

     争う。後遺障害の残存が認められるとしても,別表第二14級に相当する慰謝料が相当である。

   シ 既払金は認める。

   ス 弁護士費用,自賠責支払までの確定遅延損害金及び損害合計額は争う。

第3 争点に対する判断

 1 争点(1)(原告のCRPS発症の有無,内容及び程度)について

  (1) 認定事実

   ア 診察経過

    (ア) 戸塚共立第二病院(乙2)

      原告は,本件事故発生日である平成18年11月24日,戸塚共立第二病院を受診し頚部痛を訴え,同月25日,頚部の伸展痛,僧帽筋の圧痛等を訴えた。同病院のB医師は,同日,原告の傷病を頚部捻挫と診断した(甲3)。

      その後も,原告は,平成19年2月15日まで同病院に通院した。

    (イ) 戸塚共立第一病院(乙5の1)

      原告は,平成19年2月2日及び同月8日,戸塚共立第一病院を受診し,頚部痛及び右前腕尺側の痺れ等を訴えた。原告の傷病は頚部捻挫と診断され,当時通院していた戸塚共立第二病院での通院を続けることとなった。

    (ウ) 横浜市立大学附属病院(乙3の1ないし4)

     a 原告は,平成19年1月22日,横浜市立大学附属病院を受診し,頚部痛,右手の脱力感,右下肢前面の痺れ等を訴え,通院を開始した。

       同年3月5日撮影のサーモグラフィによれば,原告の右手肘下及び右手は,左手に比べて低温となっている(乙3の1の230頁)。

       同病院整形外科のC医師は,平成19年3月26日,原告の傷病名を頚椎捻挫としたものの,尺骨及び腓骨の筋電図は全て正常であったが,右手首から先が動かなくなった旨,右肩が挙がらない旨,右握力が0である旨,右頚部から上肢にかけてRSD様の症状がある旨の診断をした。以後,原告の希望で,麻酔科を併診することとなった。

       同年4月2日,原告は,MRI検査では特に問題はなかったが,右下肢の痛みを訴えるようになった。同病院麻酔科のD医師は,同年4月16日,右上下肢についてギボンズのRSD診断基準に照らし,「アロディニア」,「灼熱痛」,「浮腫」,「発汗の異常」及び「皮膚温の変化」が陽性,「皮膚の色調又は体毛の変化」が擬陽性(時間によって赤黒くなる)として,「5.5+α点」(RSDの可能性が高い)と判断し,同月23日,原告の傷病をCRPS(Ⅰ型)と診断した。なお,原告の手指の関節の可動域制限は特になかった。

     b 原告は,同年5月14日から同月26日までの間,同病院に入院し,神経ブロック療法及び薬物チャレンジテストが実施されたが,大きな効果はなかった。

       同年5月14日,右手のみ発汗し,手指に触れるだけでも痛いと訴え,可動域訓練もできなかった。同月16日,同病院リハビリ科において,右前腕から右手指にかけて,皮膚紫紅色,発汗あり,筋萎縮なしとの所見が示され,同年6月14日には,痛みが右腕の肘付近から頚部にまで広がった上,右手の発汗が著明となり,手首から先を動かせない状況になった。

     c 原告は,同年8月16日から同月25日までの間,同病院に入院し,脊髄刺激装置トライアル及びケタミンテストが実施されたが,効果は乏しかった。

     d 原告は,その後も断続的に同病院への通院を続けた。平成21年2月9日,同病院整形外科のE医師の指示により,両下肢のサーモグラフィ(乙3の4の16,17頁)が撮影された。同サーモグラフィによれば,原告の右下肢(膝下)の皮膚温が左下肢(同)に比べて低温となっている(なお,このサーモグラフィ撮影の際,原告は,健側である左下肢にカイロを多数貼り付けることにより,皮膚温を上昇させていたことが認められるが,同サーモグラフィは,10分ないし15分の馴化時間をおいて撮影されたものであること,午後2時52分頃と午後4時52分頃の2回にわたって撮影されたものであることが認められることからすると,上記原告の行為はサーモグラフィの画像に影響を与えたとは認め難いから,上記認定を左右するものではない。)。

    (エ) 川崎市立川崎病院(乙1)

      原告は,CRPS専門医であるF医師(以下「F医師」という。)の診療を希望し,平成19年12月11日及び同月26日,川崎市立川崎病院を受診した。F医師は,原告の右上肢にアロディニア,発汗,筋萎縮が著明であり,右手指の可動域がわずかであるとの所見を示し,原告を駿河台日本大学病院(以下「日大病院」という。)のA医師に紹介することとした。

      F医師は,平成20年5月29日,原告の病名を右上肢CRPS(RSD)とした上,右上肢筋萎縮著明,指をわずか動かせる程度,アロディニアと発汗著明であるとする診断書を作成したが,その際,原告が痛みを訴えたため触診,可動域測定などの診察はできなかった。

    (オ) 日大病院(乙4の1ないし8)

     a 原告は,平成20年1月11日,日大病院への通院を開始した。

       同日,原告の両側手部の単純X線写真が撮影され,A医師は,右手の脱灰が存在するとの所見を示した。

       A医師は,同日,ギボンズの診断基準に準じ,「アロディニア,痛覚過敏」,「灼熱痛」,「皮膚の色調,体毛の変化」,「発汗の変化」,「X線上の骨の脱灰像」を陽性,「罹患肢の温度変化」,「交感神経ブロックの効果」を擬陽性として,RSDスコアーを6点と判断した。

     b 原告は,同年4月14日から同月24日までの間,ケタミン持続療法を受けるため,日大病院に入院したが,ケタミン点滴後も痛みは不変であった。その際,原告は,病院の玄関から診察室まで自力で歩くことが可能であった。

       同月16日,原告の骨脱灰の状況を知るため両上肢の骨シンチグラフィーが撮影されたが,読影医は,肘部についても左右差が無く,両上肢に異常所見なしとの所見を示した(乙4の4の4頁)。

       原告は同月18日にケタミンの点滴を受けた後,VAS(疼痛尺度)10を訴えていたが,原告の回診に当たったG医師は,原告が着替えたり,歩いたりしていること,患側である右側を下にして休んでいること,起き上がる時に右手を支持して起き上がっていること,ケタミンの点滴直後に右手を動かしていたことなどから,症状と行動に矛盾があるとの見解を示した。

     c A医師は,同年5月12日,原告の右上肢につき,灼熱痛,アロディニア,発赤,チアノーゼ,発汗,皮膚温低下(右32.0度,左33.5度),軽度の骨萎縮,筋力低下及び筋萎縮(右上腕周径23センチメートル,左上腕周径28センチメートル,右前腕周径23センチメートル,左前腕周径27センチメートル)を認め,右肩,肘,手及び指の関節はいずれも疼痛のため自動,他動ともにできないとの所見を示した。また,A医師は,同日,ギボンズの診断基準に準じ,「アロディニア,痛覚過敏」,「灼熱痛」,「皮膚の色調,体毛の変化」,「発汗の変化」,「罹患肢の温度変化」を陽性,「浮腫」を擬陽性として,RSDスコアーを5.5点と判断した(その際,「X線上の骨の脱灰像」,「交感神経ブロックの効果」,「量的な血管運動障害,発汗異常」については判定対象とせず,「骨スキャンニング」は陰性と判断した。)。

       A医師は,同日,原告の傷病名を「CRPS(右上肢),外傷性頚部症候群」,症状固定日を同日とした自賠責後遺障害診断書(甲4)を作成した。

     d 原告は,同年5月14日から同月26日までの間,神経ブロック療法及び薬物チャレンジテストを受けるため,日大病院に入院した。

       フェントラミンテストにより背部痛の改善及び発汗の低下がわずかながら認められたものの,状態はほぼ不変のまま退院となった。

     e A医師は,平成21年8月31日,原告の右上下肢につき,灼熱痛,アロディニア,腫脹(弱),蒼白,チアノーゼ,皮膚温低下(右手28.2度,左手36.7度,右足29.3度,左足35.9度),発汗異常,軽度の骨萎縮が認められる旨の所見を示した。

       A医師は,同日,原告の傷病を「CRPS(右上肢,右下肢),外傷性頚部症候群」,症状固定日を平成20年5月12日とする自賠責後遺障害診断書(甲24)を作成した。

     f 平成22年2月22日,原告の四肢単純X線撮影をしようとしたところ,原告が右上肢の痛みを訴えたため,同部分を除いた撮影が行なわれた。同撮影画像を検討したA医師は,右下肢における骨脱灰の所見は明らかではないとの所見を示した。

       同年11月22日,A医師の依頼により,医療法人財団健貢会東京クリニックにおいて,DEXAによる骨の状況の検査が試みられたが,撮影に伴う準備にあたって原告が痛みを訴えたため,撮影は中止された(甲66)。

     g 同年11月25日,A医師は,原告の生体写真及びサーモグラフィを撮影した。その際,原告の右上下肢につきチアノーゼ状の色調の変化,右手足の皮膚温の低下が認められた(甲72,73)。

     h 平成23年7月4日,日大病院整形外科において,特別障害者手当認定診断書(乙4の3の32頁)が作成され,同診断書には,原告の四肢周径につき,右上腕中央部22.5センチメートル,左同24.5センチメートル,右前腕最大部22.5センチメートル,左同25センチメートル,右大腿中央部38センチメートル,左同37センチメートル,右下腿最大部33センチメートル,左同32センチメートルとの記載がある。

   イ リハビリテーションの経過

    (ア) H整形外科病院(乙12)

      原告は,平成18年12月20日から平成19年1月23日までの間,H整形外科病院に通院し,頚部の伸展痛,右手の痺れ等を訴え,リハビリテーションを受けた。

    (イ) I整形外科病院(乙14)

      原告は,平成19年3月13日から同年4月7日までの間,I整形外科病院に通院し,「頚椎捻挫,右上肢CRPS疑い」の診断名の下,リハビリテーションを受けた。

    (ウ) J整形外科病院(乙15)

     a 原告は,平成19年4月17日から,J整形外科病院に通院を開始し,頚部痛,右肩痛,右上肢痺れ,右下肢痛を訴え,リハビリテーションを受けた。

     b 原告は,平成20年4月11日,右上肢を固定する装具を希望したので,装具が制作され,同年6月17日,完成した。装具を装着すると,誘発痛,自発痛が軽減した。

       この間,原告は,自宅(当時)から約800メートルの距離にある同病院に独歩ないし杖を使用して通院し,同年7月15日当時も,原告は,杖を使って歩いており,続けて2,3分くらい歩けると周囲に話していた。

     c 同年10月22日から,同病院のK医師による往診となった。このころ,原告は,週1回のヘルパー,1回の友人の訪問介助を受け,食事は1日2回の配達を利用していた。往診時には,両下肢の筋力強化,可動域訓練のためのリハビリテーションが行われた。

       原告は,平成21年3月11日,手動の車いすの使用を開始した。このころから,右下肢のリハビリテーションは痛みのため行われなくなった。

       原告は,同年7月15日ころ,電動車いすの使用を開始した。原告は,同月22日ころは,松葉杖を利用してトイレまで歩行ができる状況であったが,同年10月ころからは,トイレまでは介助付きで歩行するようになった。

       平成22年1月ころから,原告の右長下肢装具の制作が予定され,同年7月頃完成した(甲37の8頁)。

       同病院からの往診は,平成22年4月29日に終了となった。

    (エ) 新戸塚病院(乙16)

      原告は,平成21年6月30日から同年12月25日までの間,新戸塚病院による車いす駆動訓練,左手による書字訓練等の訪問リハビリテーションを受けた。

   ウ 原告の介護状況等

     証拠(甲34,38,39,62,63,68,69,75,76,80,81,証人L,同M及び原告の各供述)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

    (ア) 原告の現在の身体的状態は,左手で手摺りに掴まって短時間であれば立位をとることはできる。しかし,物が身体に接触するだけでも疼痛を感じるため,左足の履物には,右足が接地しないように厚み6センチメートルの台が取り付けられたり,介護用ベッドの布団も,身体に直接当たらないようにしたりする等の工夫が施されている。

    (イ) 原告は,平成20年8月頃から,週に数回程度の訪問介護サービスを受けるようになり,平成21年3月頃以降,その回数・時間が増えた。そのサービス内容は,例えば「横浜市福祉サービス協会」(主にL〔以下「L」という。〕担当)は,平成21年12月頃から継続して原告のために家事援助と身体介助(整容,調理,食事,口腔ケア,服薬,排泄)を行っている。その回数・時間は,当初週に1,2度であったが,平成24年4月頃から平均週4回となった(水,木,金曜日の午前9時ないし11時,土曜日の午前10時ないし11時30分及び午後4時ないし6時)。

      なお,原告は,同協会のサービス提供を受けない日や時間帯についても,別の業者による同様の訪問介護サービスを受けている。

    (ウ) 原告に対する身体介助等の内容は,上記協会を例にとると,具体的には次のようなものである。

     ① 朝食の介助の際には,柔らかくふかしたコーンフレークと煮野菜等の食事を食べさせている。

     ② 昼食の際には原告が自ら摂取できるように,取っ手及びストローを付けたペットボトルにドリンク剤を充填し,自ら摂取可能なようにして準備する。

     ③ 夕食の介助については,配食サービスによる食事を細かに切るなどして食べさせている。

     ④ 原告の排泄介助については,Lの場合,原告を支えながら便座まで移動し,時間をかけながら脱衣させることにより行っている。なお,原告の身体の清拭及び更衣介助,洗濯等については,Lは介助しておらず,他の介助サービス業者が担当している。

    (エ) 原告は,外出時,リクライング式の車いすを使用し,平成21年4月頃以降,月2回程度の外出の際には「ららむーぶ戸塚」(M〔以下「M」という。〕担当)の移動サービス(車椅子を搭載可能な車両。甲38)を利用している。

   エ CRPSについての知見

     証拠(甲25,40,42,43,乙3の1,証人Aの証言)によれば,CRPSにつき,以下の知見があることが認められる。

    (ア) CRPS(複合性局所疼痛症候群)は,かつてはRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼称され,外傷又は神経損傷の後に疼痛が遷延する難治性の病態であり,外傷を受けた部位や当該外傷が通常治癒する期間を超えて疼痛が悪化することを特徴とするが,その疼痛の発生の機序は明らかになってはいない。

    (イ) 国際疼痛学会は,西暦2005年,従来の1994年に提唱された基準を改め,新たなCRPSの診断基準を提唱した。これによると,①感覚障害,②血管運動障害,③浮腫,発汗機能障害,④運動栄養障害の4項目が抽出され,臨床目的基準では,上記4項目のうちいずれか3項目以上につき1つ以上の自覚的症状を含み,かつ,いずれか2項目以上につき1つ以上の他覚的徴候を含むことが要件とされた。

    (ウ) 平成17年に組織された厚生労働省CRPS研究班は,日本版CRPS判定指標を提唱した。その臨床用判定指標においては,病気のいずれかの時期に,①皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化,②関節可動域制限,③持続性ないしは不釣り合いな痛み,しびれたような針で刺すような痛み,知覚過敏,④発汗の亢進ないし低下,⑤浮腫のうち2項目以上に該当する自覚症状があり,かつ,診察時に,上記5項目(ただし,③はアロディニアないしは痛覚過敏)のうち2項目以上に該当する他覚所見があることが要件とされた。

      なお,同指標には,「外傷歴がある患者の遷延する症状がCRPSによるものであるかを判断する状況(補償や訴訟など)で使用するべきではない。また,重症度,後遺障害の有無の判定指標ではない。」とのただし書きが付されている。

    (エ) ギボンズ(Gibbons)のRSD診断基準は,「アロディニア又は痛覚過敏」,「灼熱痛」,「浮腫」,「皮膚の色調又は体毛の変化」,「発汗の異常」,「皮膚温の変化」,「X線上の変化(脱灰像)」,「血管運動障害又は発汗機能障害の定量的測定」,「骨シンチグラフィーで骨萎縮」,「交感神経ブロックの効果」の10項目について,陽性を1点,擬陽性を0.5点,陰性を0点として合計し,2.5点以下をRSDでない,3点から4.5点までをRSDの可能性あり,5点以上をRSDの可能性が高いと評価するものである。

  (2) CRPSの発症の有無

   ア 上記(1)エに認定したCRPSに関する知見によれば,CRPSは疼痛を特徴とする病態であるが,疼痛を裏付ける客観的な医学的根拠は未だ明らかではないのであるから,臨床的に用いられる診断基準によってその発症を認定するのは相当ではないというべきである。

     したがって,前記の各診断基準を参考にしつつ,客観的な医学的証拠に基づいて認定することができる所見を中心に,CRPSを特徴づける所見の有無及び症状の経過等を総合的に評価してCRPSの発症の有無を判断するのが相当である。

   イ 上記(1)ア及びイに認定した事実,とりわけ,原告は,本件事故後,当初は頚部痛と右上肢の痺れを,平成19年3月ころからは一貫して右上下肢の疼痛及びその増悪を訴えていることに加えて,そのころから平成22年ころにかけて,複数の医師により,原告の右上下肢について浮腫,発汗の亢進,皮膚温の低下,皮膚の色調の変化(発赤,蒼白,チアノーゼ状)の所見が示されていること,右上肢については周径が左上肢に比較して縮小していること(筋萎縮)に照らすと,原告の症状及び示された所見は,CRPSを特徴づける所見である持続性の痛み,皮膚の変化,浮腫・発汗機能障害,筋萎縮を示すものであり,CRPSに特徴的な症状,経過に符合しているといえるから,原告の右上下肢についてCRPSが発症したと認めるのが相当である。

  (3) 後遺障害の内容,程度

   ア 関節可動域による評価について

    (ア) 原告は,CRPSの疼痛により,原告の右上下肢が全廃状態にあり,それぞれ別表第二5級相当と評価し,これを併合して別表第二併合2級と評価すべき旨を主張するので検討する。

      ところで,証拠(乙19,22,証人Aの証言)によれば,上下肢をほとんど使っていない状態では,筋萎縮や骨萎縮が生じること,関節を動かさない状態が継続すると関節拘縮が起きること,下肢では不動や免荷による骨萎縮が特に著しいことが認められ,同事実と,CRPSの発症が直ちに上下肢の廃用を意味するわけではないことを考慮すると,上下肢が廃用の状態にあるか否かを判断するにあたっては,CRPSが発症したかどうかの判定と異なり,廃用状態にあることを推認させる客観的な裏付け(骨萎縮,関節拘縮,筋萎縮等)を要するというべきである。

    (イ) これを本件についてみると,上記認定のとおり,A医師は,平成20年1月11日に撮影された単純X線写真に軽度の骨萎縮がみられるとの所見を示しているが,N医師が意見書(乙20)において同写真における骨萎縮の所見を否定していること,同年4月16日に撮影された骨シンチグラフィーでは脱灰の所見がなかったことからすると,同写真及びこれに対する上記所見から直ちに原告の右手に骨萎縮が生じたと認めることはできないといわざるを得ない。また,平成22年2月22日に撮影された四肢単純X線写真においては,右上肢の写真は撮影することができず,右下肢に骨脱灰の所見はみられなかったのであり,同年11月22日に撮影が試みられたDEXA検査においても撮影ができなかったのであるから,原告の右上下肢の骨萎縮を認めるに足りる客観的な証拠はないというべきである。

      この点について,原告は,平成21年6月から骨粗鬆症を予防する薬剤であるビスホスホネート製剤を服用しているから,これにより骨萎縮を防止する効果があったとみるべきであると主張する(前記第2の2(1)(原告の主張)ア(ウ)b)。

      確かに,証拠(甲45,46,乙4の1,証人Aの証言)によれば,ビスホスホネート製剤の服用によりCRPSの症状が軽減した事例が複数報告されていることは認められるが,これらの事例は,いずれもビスホスホネート製剤の服用後疼痛が軽減ないし消失するとともに骨萎縮も改善したという事例であって,疼痛による廃用状態が継続したまま骨萎縮が改善したとみる余地があるかどうか不明である上,ビスホスホネート製剤の服用によって必ずしも骨萎縮を完全に防止する効果があるとまでは認められないから,原告の主張は採用することができない。

      次に,A医師が作成した自賠責後遺障害診断書(甲4,24)には,関節拘縮との記載があるが,同医師は,長期間動かしていない以上関節拘縮があると推察したものにすぎず,触診をしたり,他動的に可動域を測定した結果を記載したものではないこと(証人Aの証言)からすると,上記記載をもって廃用の根拠となる関節拘縮を認めることはできず,他に原告の右上下肢の関節拘縮を認めるに足りる的確な証拠はない。

      更に,平成20年5月12日及び平成23年7月4日ころにおいて,原告の右上肢の周径が左上肢に比較して縮小しており,筋萎縮がみられたが,右下肢には同様の所見を窺うことはできないことは上記認定のとおりである。

    (ウ) よって,原告については,右上肢の筋萎縮は認められるが,右下肢の筋萎縮,右上下肢の骨萎縮及び関節拘縮を認めることはできないから,原告の右上下肢の全廃を前提とする主張は採用することができない。

   イ 神経系統の機能としての評価について

     前記1(1)認定の事実,殊に,原告は,本件事故後ほぼ一貫して右上下肢の強い疼痛を訴えていること,原告は,独立歩行が困難であり,少なくとも長距離の移動には介助又は車いすを要すること,上肢を使用した精緻な作業は困難であること等に加え,リハビリテーションの経過及び介護状況の内容・程度を総合勘案すると,原告の右上下肢の後遺障害の程度は,少なくとも「神経系統の機能に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの」として別表第二7級4号に該当すると認めるのが相当である。

     原告は,「神経系統の機能に著しい障害を残し,随時介護を要する」状態(別表第一2級相当)にあると主張するが,上記認定,説示に照らして採用することはできない。

   ウ 以上によれば,原告のCRPSは,関節可動域による評価は困難であるが,神経系統の機能障害として別表第二の7級4号に当たるものというべきである。

 2 争点(2)(症状固定日)について

   証拠(甲4,24)によれば,A医師は,平成20年5月12日付け診断書(甲4)及び平成21年9月4日付け診断書(甲24)において,原告の後遺障害の症状固定日を平成20年5月12日と記載していることが認められるから,同日をもって症状固定日と認めるのが相当である。

   この点について,原告は,その病状が同日以降も悪化の一途をたどっていたから,実質的な症状固定日は平成22年2月6日であると主張するが,前記1(1)に認定した経過に照らせば,上記症状固定日までに原告の右上下肢の持続的な疼痛が出現し,神経ブロック療法,薬物チャレンジテスト,ケタミン持続療法のほか,投薬などの治療が行われたが,顕著な効果はなく,療養をもってしてもその効果が期待できず,残存する症状の最終状態となったということができ,同日以降,原告の症状が自然的経過によって新たな状態に到達したと認めるに足りる証拠はないから,原告の主張は採用することができない。

 3 争点(3)(損害額)について

  (1) 治療費 303万6267円

   ア 既払いの治療費242万2501円は当事者間に争いがない。

   イ 証拠(甲30)及び弁論の全趣旨によれば,症状固定日である平成20年5月12日までに原告が支払った治療費70万2296円であるところ,本件と関連のない胃潰瘍関係治療費8万8530円が含まれていることが認められるから,これを控除すると,61万3766円であると認められる。

  (2) 通院付添費 0円

    前記1(1)に認定した原告の病状及び経過に鑑みれば,症状固定日である平成20年5月12日までに,原告が一人で歩行することができない状態であったとまではいえないから,通院のための付添いを受ける必要性を認めることができない。

  (3) 将来介護費 1792万9749円

    前記1に認定した事実のとおり,原告は,右上肢による巧緻な作業をすることができない上,少なくとも長距離の歩行には困難を伴っているため,Lによる週4回(1日あたり2時間ないし4時間)の食事介助,排泄介助等のほか,Mによる月2回程度の移動介助を受けているのであり,その余の日々についても同程度の訪問介護を要する状況にあるから,その費用は1日あたり3000円(年間109万5000円)を下らないと認めるのが相当である。

    これに症状固定時46歳からの平均余命である35年間に対するライプニッツ係数16.3742を乗じて計算すると,1792万9749円となる。

  (4) 入院雑費 5万1000円

    証拠(乙3の2,3の3,4の2,5の2)によれば,原告は,症状固定日までの間,戸塚共立第一病院,横浜市立大学附属病院,日大病院に合計40日間入院したことが認められ,このうち,本件と関連のない胃潰瘍の治療を目的としてされた6日間を控除した日数は34日間である。

    入院期間について1日あたり1500円の入院雑費を認めるのが相当であるから,これに上記34日間を乗じて計算すると,5万1000円となる。

  (5) 交通費 22万5060円

   ア 既払いの交通費16万6100円については当事者間に争いがない。

   イ 証拠(甲35)によれば,原告は,症状固定日までの間,通院交通費として5万8960円を支出したことが認められる。

  (6) 家屋改造費 0円

    証拠(甲36の1ないし3)によれば,原告は,平成22年3月19日から同年4月10日までの間,居室と和室との間の壁と段差をなくしてポータブル便器を設置し,廊下の幅を広くすることを内容とする改造工事を行ったこと,その費用として250万1000円のうち公的補助を除いた額である119万1000円を支出したことが認められる。

    しかしながら,前記1に認定した原告の現在の介護の状況に鑑みれば,原告には,巧緻な作業及び独立歩行に困難が生じているものの,上記のような大規模な家屋の改造が必要であるとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

  (7) 装具・備品購入費 394万0944円

   ア 支出済みの費用 147万4322円

     証拠(甲37)によれば,原告は,右上肢装具4万2951円,同修理代5304円,長下肢装具代4万1560円,電動車いす代78万6000円(平成21年7月15日購入),介護用ベッドレンタル代合計4万7000円,電動ベッド代51万5872円(同年7月1日購入),足湯バケツ代1155円,レッグベッド及び右足背クッション代1万6000円,介護用ベッドのキャスター代1万8480円の合計147万4322円を支出したことが認められる。

     被告は,これらの支出について争うが,前記1(1)で認定した事実によれば,原告の疼痛を緩和する上で上下肢の装具の装着が有効であること,原告は,少なくとも長距離の移動には車いすが必要であること,前記(3)のとおり,原告は,日常生活動作をするのに介助人による介護を必要とし,これについて介護ベッド等の介護用品が有用であることからすれば,上記のとおりいずれも損害と認めるのが相当である。

   イ 将来の費用 246万6622円

     上記アのとおり,原告には,電動車いす及び介護ベッドの購入の必要性が認められ,これらの耐用年数が経過した後は,買換えの必要があるところ,耐用年数は,電動車いすについて8年,介護ベッドについて6年と認める(弁論の全趣旨)のが相当である。

     原告は,平成21年7月1日に介護ベッドを51万5872円で,同月15日に電動車いすを78万6000円で購入しているところ,最終購入時47歳からの平均余命である34年間に,電動車いすについては4回,介護ベッドについては5回の買換えの必要が見込まれるから,各買換え時期に対するライプニッツ係数を乗じて現価計算すると,以下のとおり,電動車いすについては130万0751円,介護ベッドについては116万5871円となる。

    (車いす)

     786,000×(0.6768+0.4581+0.3101+0.2099)=1,300,751

    (介護ベッド)

     515,872×(0.7462+0.5568+0.4155+0.3101+0.2314)=1,165,871

  (8) 休業損害 1036万1520円

    証拠(甲12の1・2,13,原告の供述)によれば,原告は,本件事故前は,ソフトウェア会社に勤務していたこと,本件事故前年である平成17年度の原告の給与収入は727万3104円であること,本件事故日から症状固定日までの536日間のうち,原告が就業先に出勤したのは16日間であることが認められ,前記1(1)に認定した事実によれば,原告は,本件事故後,右上肢の痺れ及び疼痛のため,巧緻な作業ができず,勤務に復帰することは困難であったと認められるから,536日間から16日間を控除した520日間につき,年額727万3104円を日割計算した日額1万9926円の休業損害を認めるのが相当であり,これを計算すると,1036万1520円となる(727万3104円÷365日=1万9926円,1万9926円×520日=1036万1520円)。

  (9) 入通院慰謝料(傷害慰謝料) 200万円

    前記1(1)及び3(4)のとおり,原告は,本件事故による傷害の療養のため,34日間の入院をし,症状固定日まで536日間の通院を余儀なくされたことが認められ,その精神的苦痛を慰謝するには,200万円が相当である。

  (10) 後遺障害逸失利益 5221万9956円

    前記(8)のとおり,原告の本件事故前年の給与収入は727万3104円であるところ,前記1(3)のとおり,原告は,別表第二7級に相当する後遺障害を負ったのであるから,労働能力を56パーセント喪失したと認めるのが相当である。これに症状固定時46歳から67歳までの就労可能年数21年間に対するライプニッツ係数12.8212を乗じて計算すると,5221万9956円となる。

  (11) 後遺障害慰謝料 1000万円

    前記1(3)のとおり,原告は,別表第二7級に相当する後遺障害を負ったのであるから,これによる苦痛を金銭評価すると,1000万円が相当である。

  (12) 既払金 1476万6471円

    前提事実(3)のとおりである。

  (13) 弁護士費用 850万円

    上記(1)ないし(11)の合計9976万4496円から(12)の1476万6471円を控除した合計は8499万8025円であるところ,原告が本件訴え提起に当たり代理人弁護士に依頼したことは記録上明らかであり,本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は,上記合計の約1割に相当する850万円と認めるのが相当である。

    そうすると,原告の総損害額は,9349万8025円となる。

  (14) 自賠責支払までの確定遅延損害金 109万2752円

    原告が,平成20年12月22日,自賠責保険金として1051万円の支払を受けたことは前提事実(3)のとおりであり,本件事故発生日から同日までの759日間に発生した,当該支払部分に対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金を計算すると,109万2752円である。

  (15) 合計

    上記のとおり,原告の総損害額は9349万8025円であるところ,確定遅延損害金は109万2752円であり,総額は9459万0777円となる。

第4 結論

  以上によれば,原告の請求は,9459万0777円及びうち9349万8025円に対する不法行為の日である平成18年11月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,上記の限度で認容し,その余を棄却することとして,主文のとおり判決する。

  なお,仮執行免脱宣言は,相当ではないから付さないこととする。

    横浜地方裁判所第6民事部

        裁判長裁判官  市村 弘

           裁判官  小野航介

      裁判官竹内浩史は転補のため署名押印することができない。

        裁判長裁判官  市村 弘

 

 

 

 

 

 

 

 



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